一般的にいって、ある企業が事業部門の売却や分社化を決定するときその戦略上の目的は通常、明確である。
事業の焦点を明確にするため、市場から撤退するため、価値を引き出すため、或るいは事業ポートフォリオを再構築するため。企業戦略の観点では、この意思決定は一見すると単純に映るかもしれない。
書面上では、事業部門の分離は比較的簡単に見えることが多い。売却対象となる事業体を特定し、新たな構造を定義し、取引に向けた法的・財務的な枠組みを整える、というように。
しかし、企業のシステム内部を見てみると、状況はそれほど簡潔とはいかない。
障壁が明らかになるのは、多くの場合、取引が実行段階へ進み始めた後である。
共有ERPシステムの実態
特に大企業では、長年にわたって独自の進化を遂げてきたERPプラットフォーム上で事業運営がなされている。これらのシステムはもちろん、将来的に分離される可能性のある個々の事業部門としてではなく、組織の全体を支えることを前提として設計されてきた。
事業成長とともに、各事業体にまたがるプロセスは密接に統合されていく。財務報告の構造は複数法人にまたがり、サプライチェーンのプロセスは共有環境上で運用される。マスターデータは、複数の事業部門や地域で共同利用されている。
組織構造の観点からは、表面上独立した事業部門に見えるものが、実際には共有デジタル基盤の中に深く組み込まれているケースも少なくないということである。
まさにここから企業変革の障壁が生まれる。
事業売却やカーブアウトが発生すると、そもそもシステム環境上で独立運営がなされる想定ではなかった事業の一部を、実質的に分離しなければならなくなる。
真の障壁はデータの絡み合い
事業売却において、最も過小評価されがちな障壁の一つがデータの絡み合いである。
企業データは、単一の事業体にきれいに属していることはほとんどない。言い換えれば、顧客、仕入先、品目、契約、財務記録などは多くの場合、複数の組織単位で共有されている。
これらのデータ構造を分離するには、慎重な現状把握とコントロールのとれた変革が不可欠となる。変革のゴールは、単に情報を新しい環境へコピー&ペーストすることではない。新しい事業体が事業を運営するために必要なデータを確実に利用できるようにしながら、既存のシステム環境全体との整合性も維持しなければならない。
同時に、ガバナンス対応や財務報告の要件を中断させることは絶対にできない。
財務チームは、引き続き正確に決算を行う必要があるし、業務部門には、調達、物流、製造を支えるシステムが変わらず必要となる。そして基盤システムの再構築がなされている間も、コンプライアンス上の義務は何ら変わらない。
取引実行における時間的プレッシャー
事業売却やカーブアウトは、厳格なデッドラインに基づいて進められる。
取引が一度発表されると、Go-Live時の初動に対して、明確な期待が寄せられる。買い手は事業を独立して運営できる状態を求めるし、移行期間中のサービス契約(TSA)によって、共有システムをどれだけの期間維持できるかが定められる場合もある。
そのため、ITチームは難しいバランスを取る必要に迫られる。
業務継続性を守るためにシステムを慎重に分離しながら、同時に取引スケジュールに間に合うようなスピード感で変革を進めなければならない。
このスピードとコントロールの両立という緊張感こそが、変革プログラムで多くのチームが苦戦するポイントである。
早期のシステム可視化が重要な理由
前提として、カーブアウトを成功裏に進めている企業に共通する、唯一の正解となるアプローチが存在するというわけではない。
しかし彼らに共通しているのは、ERPの変革を、ディール後に行う単なるテクニカルステップとみなすのではなく、早期の現行システム環境に関する理解から始めた、という点である。具体的には、事業体間の依存関係の把握、共有データ構造の特定、そして実行開始前の複数分離シナリオに関する検討、といった施策が実行されている。
この可視化によって、経営陣はIT観点も踏まえたうえで、取引をどのように実行すべきかについて、より十分な情報に基づいた上質な意思決定を行えるようになる。
システムの完全分離が正解となるケースもある一方で、段階的なアプローチで、まずは業務上の安定性を確保したうえで、そこからより深い変革へ進むことが正解のケースも存在する。
いずれのケースでも重要となるのは、十分な自信を持って計画を立てられるよう、早期の段階でシステムの実態を理解することである。
構造的な変革には構造的な思考が必要である
今日のERPプラットフォームは、単なる財務システムではない。コア業務プロセス、コンプライアンス対応、サプライチェーン、そして近年ではアナリティクスやAIを支えるデータ環境までを担っている。
そして組織体制が変化するとき、システム構造も合わせて進化しなければならない。
そのため、事業売却やカーブアウトには、単なるテクニカルな実装以上のものが求められる。ビジネスサイドのリーダー、財務チーム、ITスペシャリストの間で、慎重な連携と調整を行う必要があるということだ。
この点を変革の初期段階でクリアしている企業ほど、構造変革をより自信を持って成功に導いている傾向があると言える。
逆にこの点を過小評価してしまうと、ディール締結後になって初めて、これまで見逃してきた最も困難な障壁に気づくことが多い。
今後数週間にわたって、ONE.Ascentキャンペーンでは、合併、買収、事業売却といった構造変化の局面において、ERP変革をコントロールをもって進めていく方法、そして業務継続性を維持しながら変革のリスクを最小化する方法について、引き続き探っていく。
さらに詳しく知る
もし合併、買収、カーブアウト、またはシステム分離に取り組んでいらっしゃるのであれば、今後開催予定のONE.Ascentウェビナーや対面企画に参加していただきたい。構造的な変革の中で、どのようにERPの変革を管理できるのかについて取り上げる予定である。
また、ONE.Ascentのキャンペーンページでは、アジア太平洋地域の他の企業が、明確な見通しと統制を持って、どのように企業変革に取り組んでいるのかについて紹介している。