SAP S/4HANA への移行段階では、ほとんどの議論はすでに済まされている。
移行のもたらす価値は検討され、そのリスクも考慮され、それが孕んでいる複雑さは理解され、それに基づいて進むべき方向性も定義されている。
しかしながら、しばしば十分に検討されていない一つの問いが残る。
「SAP S/4HANAへ移行した後、何が起こるのか」
実装の先にあるもの
SAP S/4HANAはしばしば、到達点として位置付けられている。
しかし実際には、それはただの基盤に過ぎない。
前提として、SAP S/4HANA単体でビジネスに変革を生み出せるというわけではない。それが適切に活用されて初めて、意味のある変化を生み出せる。
例えば、以下の事柄を可能にする。
・組織全体で一貫性があり、信頼できるデータを構築する
・リアルタイムで状況を可視化し、それに基づく意思決定へ導く
・システムやプロセス間の分断を防ぐ
・よりスケール可能で柔軟なオペレーションモデルを実現する
つまりこの基盤がなければ、複数の施策はそれぞれ分断されたままとなり、スケールするのも困難である。
AI対応の出発点とされる理由
業界全体で、AI、オートメーション領域を駆使した高度な分析への関心が高まっている。しかしながら、多くの企業に共通して以下の課題が浮かび上がる。
・組織全体で一貫性のある信頼できるデータの構築
・リアルタイムでの状況の可視化とそれに基づく意思決定の実現
・システムやプロセス間の分断の軽減
・よりスケール可能で柔軟なオペレーションモデルの構築
この基盤なしでは、それぞれの施策が分断されたままとなり、そのスケール化も困難となってしまう。
その結果、残念なことにAI施策は全社的な武器とはならず、個別の実験レベルにとどまりがちになってしまう。SAP S/4HANAはこの課題解決へ一石を投じるものではあるが、それは広い視野をもって導入がなされるという条件付きでのことである。
データ構造が整えられ、プロセスが簡素化され、システムが統合されることで初めて、企業は以下のような次のステップへ進むことができるのである。
・本当に価値が発揮される領域での自動化
・信頼性が高く実行可能なインサイトの創出
・縦割りではなく、全社横断的なAI活用の拡大
単なるシステムから企業全体のケーパビリティへ
変革の成否のカギを握るのは、実はシステムそのものではない。むしろそれを基盤としてどのようなケーパビリティを構築できるかにかかっているといえる。
SAP S/4HANA導入後に具体的な業務プロセスがどのような変貌を遂げたかについて見てみると、この点はより明確になる。
変革前の課題として、以下のような状況が多くの企業で発生しているのが現実であろう。
・財務部門が決算やレポーティングの前に手作業でデータ統合を行っている
・サプライチェーン部門が分断された在庫情報に依存しているために、供給の計画に遅れが生じている
・ビジネス部門が分析の際にわざわざシステム外のデータをスプレッドシートに抽出している
これらはシステム上避けられないオペレーションでは全くなく、データ、プロセス、ツールの分断により生じたに過ぎないものである。
適切に構築されたSAP S/4HANA基盤があれば、これらのオペレーションに、以下のような変革をもたらすことができる。
・拠点間の財務データに一貫性をもたらし、決算に関する迅速さと信頼性の向上をもたらす
・在庫や業務データを地域横断でほぼリアルタイムに把握できるため、計画の精度と実際の対応力が向上する
・レポーティングや分析のための元データへのアクセスが可能になり、これまで不要な工数をかけていた手作業への依存が減少する
さらに最終的にはこれらの変革を、企業全体に以下のようなケーパビリティとして還元することができる。
・システム横断で情報を統合できるデータ基盤
・迅速な意思決定を支える分析や計画ツール
・手作業で行っていた反復業務を削減する自動化
・需要予測や財務分析などへのAI活用
繰り返すがこれらはそれ自体で成り立つような単独の施策ではない。
むしろ安定したデジタルコアと、データ・プロセス・ビジネス戦略との間における、相互の明確な結びつきがあって初めて成り立つものである。
企業変革を実現するために
企業変革は抽象的に語られがちである。しかしこれは単なるソリューション導入では達成できないものだ。
実際には、下記のような幅広いケーパビリティが、日常の業務レベルで使用可能なものとして落とし込まれて初めて実現される。
・ビジネス戦略的優先度とIT面に関する意思決定との整合性
・データ、プロセス、システムの親和性
・戦略、データ管理、インフラといった領域の連携
多くの企業は、実装から本質的な変革へ移行するこの段階でまさに、新たに複雑な課題に直面することとなる。
連携のとれたアプローチの重要性について
企業変革は単一の組織やソリューションで完結するものではない。
つまり、下記に代表されるような複数領域にまたがる連携が不可欠だということである。
・ビジネス戦略と変革プロジェクト戦略レイヤー
・データおよび情報管理に関する領域
・プラットフォームとインフラ部門
・実行プロセス管理および導入部隊
これらの要素がうまくアラインされたとき、変革がただの一施策から統合されたケーパビリティへと、その意味づけを変える。
ここに、単なる新たなシステムの導入と、抜本的な企業変革の違いが見えてくる。
一度これまでの議論を整理してみよう
本シリーズでは、企業がSAP S/4HANAへ移行する際に直面する主要な課題について下記のように整理してきた。
・変革が持ちうるビジネス戦略的な価値を明確化することの難しさ
・日常業務への影響に対する不安
・既存システムの複雑さへの懸念
・適切なアプローチ選択をする際の迷い
これらは一つの要素だけでも十分、変革の進行を遅らせる要因となるが、さらにこれらが重なることで変革の不確実性へとつながってしまう。
構造的に整備された変革アプローチのために
前項で見てきたこれらの課題に対処するためには、単なるIT面における計画だけでは十分でない。
必要なのは、次にあげる要素を統合した形での構造的なアプローチである。
・現状とそれが孕んでいる制約への明瞭な理解
・適切な変革方針に関する精緻な定義
・データ、プロセス、システム横断型の変革
・ガバナンスに基づいた実行と検証による信頼の創出
・成果の一貫性と透明性を実現できるという確信
これらの諸要素一つ一つが、よりインパクトのある変革の基盤をなす。
移行から変革の加速へと進めるための要点
SAP S/4HANAへの移行は重要なステップの一つであることは間違いない。
しかしそれだけで企業変革の成功が定義されるというわけではない。
重要なのはむしろその後である。この変革で得た基盤をもとに、どのように企業全体としてのケーパビリティを構築し、変化に適応しつつ、長期的価値を創出できるかということだ。
SAP S/4HANAは最終地点ではない。むしろ、企業変革とAI対応が現実のものとして始まる起点といえよう。
企業変革の計画段階から実行フェーズへ進もうと検討している企業にとって、次に待ち受けるステップは、単に提案された複数のアプローチから最適解を選択することではない。ビジネス戦略的優先順位、現行システムの課題把握、そして長期的な目標までさかのぼる形で、アプローチを定義することである。
もしSAP S/4HANAへの移行をご検討されているのであれば、cbsは貴社の現状と、ビジョン戦略観点での優先事項に基づいた構造的なご検討のお手伝いをさせていただきます。