どのパートナーも SAP S/4HANA への“最適なアプローチ”をうたう――その時選択肢からどれを選べばよいか

16. April 2026

 

SAP S/4HANA への移行における価値、リスク、複雑さにまつわる検討の末、多くの企業はある共通の課題に直面する。

変革に向き合う覚悟はできているが、どのように進めるべきかが分からないのである。

この段階における課題は、もはや変革が必要かどうかという点ではない。進め方をどのように正しく見極めるかである。

どの答えも正しく見えるとき

SAP S/4HANAへの移行に関するマーケットでは、様々に異なるアプローチを提示される。

そしてもちろん、それぞれに独自の強みがある。

・システムを新規に構築して簡素化・標準化する


・既存システムを生かす形で変換して混乱を最小化する


・その中間的なバランスを取る

机上では、いずれの選択肢も妥当に見えよう。

しかし、それぞれを実際の自社環境に合わせて検討すると、ふさわしくない選択である可能性もある。

ある企業にとって有効な方法が、別の企業にもそのまま当てはめられるとは限らない。特に、ビジネス戦略の優先順位、システムの複雑さ度合い、運用上の制約に関して大きく状況が異なっている場合はなおさらである。

意思決定の難しさ

難しさの本質は、選択肢が不足していることではない。逆に多すぎることである。

加えて、関係者ごとに重視する点も異なる。

・ITチームは技術的なシンプルさや変革スピードを重視する


・ビジネスチームは既存事業の継続性や成果を重視する


・外部のパートナーは彼ら自身の強みに基づいた提案を行う

その結果、企業は自社に適した方法を評価する明確な基準がないままで、アプローチ同士の比較に終始してしまう。

議論の焦点は、本来そうであるべき「成功の定義」ではなく、「どの選択肢を選ぶか」に絞られてしまう。

アプローチから出発するリスク

よくあるパターンとして、変革の初期段階でアプローチを先に決めてしまうケースがある。

このパターンは初動のスピードを生む一方で、後々になって以下のような問題を引き起こす可能性がある。

・重要なビジネス要件についての考慮が不十分であった


・実行段階で初めて可能な変革の範囲が制限されてしまった


・途中で調整が必要となり、システムの複雑さとリスクが増大してしまった

このような場合、ビジネスにおける必要性が変革を導くのではなく、アプローチが変革を支配してしまうといえる。

意思決定の正しい出発点

より正しい出発点は、「どのアプローチを選ぶべきか」ではない。

本当に問うべきなのは、「ビジネスが変革を通して何を達成すべきか、そしてどのような制約が変革において生じるか」という点である。

ここで初めて意思決定は、次の各プロセスを経て構造的に収斂していく。

・現行システム環境に関する詳細な把握


・主要なビジネス戦略における優先事項と、変革に伴い生じる制約の抽出


・変化が必要な領域と継続すべき領域の線引き


・現実的な変革シナリオの設計

この段階を経て初めて、アプローチの選択が明確になり、組織の実態に沿ったものとなる。

変革実行の前に明文化すべき事項

この段階をうまく乗り越える企業は、進む道を決める前に、下記の事項をしっかり明確にしてから進む。

・現行環境の特徴とその複雑さ


・ビジネス戦略上の最重要成果


・スピード、リスク、そして変革の度合いに関わるトレードオフ

これらの事項が一度明確になれば、意思決定は既存アプローチからの選択ではなく、自社に適した独自の方法をいかに定義するかという方向へと変わる。

実行における精度

方向性がいったん定まれば、次の焦点は精度の高い実行へと移る。

・構造化され統制された変革ステップの計画


・システム、プロセス、ひいては地域横断型の変更に関するガバナンス管理


・プロセス全体を通じたビジネス戦略サイドとITサイドの整合性の確保

この段階でより重要となるのは、単にシステムを導入することではない。計画の初期に定義した成果を実現することである。

実例における理想的な形

ある典型的な例で考えてみよう。

複数の国々にまたがって事業展開をする企業が、長年にわたりSAP環境を改良してきたケースである。中核プロセスは安定している一方で、様々な必要性に迫られる形で、カスタマイズされた開発や地域ごとの仕様の違いが山積している。

この企業がSAP S/4HANAへの移行を検討することになると、相反する2つのアイデアが提示される。

一つは新規システム構築による標準化であり、これには大きな業務変革を伴う。
もう一つはなるべく現状維持をしたままの移行であり、これで初期の混乱は抑えられるものの、後々まで解決すべきであった課題は依然として残される。

もちろん、いずれを選択しても完全な課題解決とはならない。

この場合に求められるのは、より両者のバランスが取れる形のアプローチである。

・受注から入金の流れや製造計画、決算処理など、日常業務に深く組み込まれた中核プロセスは極力変えずに維持する


・マスターデータの仕組み、レポーティングに関するロジック、重複してしまっているワークフローなど、地域間で不整合がある領域に関しては抜本的に見直し標準化する


・調達に関する承認プロセスや、在庫管理システムなどで非効率であるのが明確な場合はそれらのみを抽出して選択的に再設計する

これにより、変革は必要な領域のみで集中的になされ、不必要に全体へと適用されることは避けられる。

同時に、議論の的は提示されたアプローチからの選択ではなく、自社に適したアプローチを独自設計する方向へとシフトできる。

一貫したアプローチの実現のためにアセットをアラインする

この段階では、変革はもはやアプローチの選択にはとどまらず、戦略的な成果の実現のために必要となる各アセット間のアラインメントに関する議論へと進む。

具体的には次の領域でのアラインメントが不可欠になってくる。

・ビジネス戦略と変革の優先事項


・データおよび情報の管理


・インフラおよびプラットフォームの整備

これらをアラインさせることで、起こりうる分断を防ぎ、一貫性のある変革を実現できる。

選択肢の検討フェーズから変革の実行に対する確信フェーズへ

複数のアプローチの中で検討を重ねること自体は問題ではない。

むしろ重要であるのは、自社のニーズ、変革に際する制約、長期的なビジョンを踏まえて、確信を持って意思決定できるかどうかである。

現実には、多くの企業変革を単一のモデルで片づけることはできない。最適な道というものは、多くの場合ビジネスの状況に合わせて設計された、複数のアプローチの組み合わせであるといえよう。

繰り返しになるが、明確なビジョンに基づき、精度高く変革を実行するには、「最適な方法を選ぶこと」ではなく、「想定通りの成果を実現すること」が肝要である。

次回記事

進むべき道が定まった後、さらに重要な問いが生まれる。

SAP S/4HANA導入後における「成功」とは何か。

単なるシステムの移行にとどまらず、移行によってデータ、オートメーション、AIといった領域で、どのように長期的価値を創出できるか。

最終回では、単なるシステム実装を超える価値創出のためのヒントと、SAP S/4HANA が将来志向・AI活用型企業の基盤となりうる理由について解説する。

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