合併、買収、または事業売却が公に発表される頃には、ビジネス戦略サイドの対応はすでにほとんど完了していることが多い。
取引の枠組みについては交渉済み、財務モデルの整合も取られている。法的な枠組みについても合意が取れている。経営陣は、取引が完了した後に組織がどのような姿になるのかを見据え、準備を進めている。
この段階で注意しなくてはならない点は、事業を動かしている基盤となるシステムが、新しい組織構造にどのように適応できるかという点である。
そして多くのケースで、この課題は一連のプロセスの中で最も複雑な部分といえる。
ERPシステムは、企業の事業運営そのものに深く組み込まれている。財務報告、調達、製造、物流、コンプライアンスのプロセスは、すべて同じデジタル基盤を通じてつながっている。事業構造が変われば、これらのシステムも同様に変化していかなければならない。
そしてこの変化を、業務を中断することなしに実現しなければならない。
スピードと安定性とのジレンマ
もちろんM&Aプロジェクトで、システム変更に時間を無制限に費やせるケースはほとんど存在しない。
買い手からは、早期に事業を独立して運営できる状態になることが期待されている。移行期間中のサービス契約(TSA)では、往々にして厳格な期限が設定される。そして社内の経営陣からは、新しい組織体制への移行をできるだけ早く進めるようプレッシャーがかかる。
一方で、ERPシステムを無計画に分離したり、統合したりすることもできない。システム変更の実行が不十分であれば、財務報告、業務プロセス、コンプライアンス対応に支障をきたす可能性があるからだ。
こうした状況から、多くの企業に共通のあるジレンマが生まれる。
変革を焦って進めると、業務中断を余儀なくされるリスクが高まる。
逆に慎重になりすぎると、今度はM&Aのスケジュール自体を守ることが難しくなる。
スピードと安定性のバランスを見つけることこそが、成功するプログラムのカギであるということだ。
M&Aに伴う変革を成功させる企業に見られる特徴
M&Aに伴うERP変革を成功させている企業には、体系的なアプローチが共通して存在する。
第一のステップは、可視化である。まずは現在のシステム環境、データの依存関係、各事業体間のプロセスのつながりを把握することが、現実的な意思決定の何よりの基盤となる。
第二のステップは、シナリオ計画である。単一の進め方を前提とするのではなく、業務の継続性、コスト、スケジュール上の制約といった諸要素のバランスを考慮しながら、さまざまな変革シナリオを査定する。
システムを完全に分離する必要が生じる場合もあれば、まず業務の安定性を確保したうえで、より詳細なシステム変革は後から行う、といった段階的なアプローチで進められる場合もある。
第三のステップは、変革実行の際の規律である。変革プログラムには、明確なガバナンス、現実的なテストシナリオ、明確に定義されたクオリティチェックが必要である。これにより、システム変更によって新たな業務上のリスクが生じることを防ぐことができるようになる。
どのステップも、変革に劇的な効果を生む性質のものではない。しかし、そこには経験、調整力とともに、システムを単なるテクニカルな処理ではなく、経営戦略的に重要な要素として捉える姿勢が求められる。
不確実性の闇から抜け、統制のとれた変革へ
企業の構造的な変革が今後も加速し続けることは、疑いようのない事実だ。
絶えまない事業ポートフォリオ再編、新たな市場への進出、変化する経済環境への適応。その中で、合併、買収、事業売却は企業変革を推進していくための重要な要素の一つであり続けるだろう。
同時に、ERPシステムは企業の事業運営においてますます中心的な役割を担うようになっており、近年では財務ガバナンス、業務の遂行、レポーティングを支えるだけにはとどまらず、アナリティクスやAIを支えるデータ環境においても重要な役割を果たすようになってきた。
この2つの潮流が交差することで、各企業はシステム変革に対して、より体系的かつ先を見据えたアプローチを取ることが不可欠になってきている。
M&AにおけるERP変革は、その場しのぎのテクニカルな作業として行うべきではない。
むしろそれは、事業の継続性を守りながら、組織が自信を持って前進できるよう設計された、統制のとれたものでなければならない。
この考え方は、ONE.Ascentキャンペーンの中核をなす。本キャンペーンは、複雑な変革シナリオに対して、より明確な見通し、より緊密な連携、そしてリスクへのより高い意識を持って取り組んでいくための方策を探る内容となっている。
さらに詳しく知る
もし合併、買収、カーブアウト、またはシステム分離に取り組んでいらっしゃるのであれば、今後開催予定のONE.Ascentウェビナーや対面企画に参加していただきたい。構造的な変革の中で、どのようにERPの変革を管理できるのかについて取り上げる予定である。
また、ONE.Ascentのキャンペーンページでは、アジア太平洋地域の他の企業が、明確な見通しと統制を持って、どのように企業変革に取り組んでいるのかについて紹介している。